財政危機が招く「国債からの金へ」のシフト

財政危機が招く「国債からの金へ」のシフト

ギリシャ財政危機をきっかけにソブリンリスク(国債のリスク)という言葉がマーケットの流行語のようになっている。国が発行する国債といえどもデフォルト(債務踏み倒し)のリスクがある、ということを個人投資家も意識し始めたようだ。

 

国債の安全神話は、「放漫財政を続けず財政規律は守られる」、あるいは「国の財務諸表に当たる数字に粉飾はない」という大前提が当然守られるという性善説の上にが成り立っていた。しかしギリシャにはその当たり前は通用しなかった。

 

性善説に基づく国債神話が崩れると、個人投資家は「日本国債は大丈夫なの?」と自国のことが心。配になってくる。日本の公的累積赤字は900兆円を突破した。誰がどう見ても、まともな手段で返済できる数字ではない。最近の筆者の講演でも、出席者から「徳政令のようなウルトラCの超法規的措置でも発動しない限り、この財政危機からは脱却出来ないのでは」という声が頻繁に聞かれる。

 

その結果、マネーの流れにも変化が生じている。リーマンーショツクの時は「株から金へ」というシフトであったが、10年に入ってからは、国債を売って実物資産の金に乗り換える動きが目立つ。

 

ただし、意外にも欧米勢は日本の財政状況に楽観的である。英フィナンシャルタイムズ紙などは「日本の場合はfamily issue =家族内の問題」と片付けている。米国の国債は中国、日本などの外国人投資家による購入で支えられている対外債務であるが、日本の国債のほとんどは1400兆円を超す日本人個人投資家マネーが直接、間接に買っている。従って日本国債のソブリンリスクはさほど心配しなくてよい、という論調である。

 

家族内問題ということは、オヤジが積み上げた借金を息子が払うという構造になっているわけだ。しかし息子にしてみれば、納得できるはずもない。バブルの恩恵でいい思いをしたオヤジ世代のツケの尻拭いなど、まっぴらご免であろう。これこそ日本流ソブリンリスクだと思う。

 

財政危機をいち早く窯知したヘッジファンドの動き

機関投資家の中にも、膨張する国債保有に不安を感じている人達が非常に多い。「赤信号、皆で渡れば怖くない」の発想で、皆が国債を買い続けているため、当面、債券市場の需給は保たれている。しかし、国債を大量に保有する機関ほど気味悪く感じるものらしく、そのヘッジとして金を研究している。

 

筆者が機関投資家向けの金セミナーで講演すると、終了後にこっそり近寄ってきて「個人的に金を買いたい」と相談に来る定年間際の年金理事さんも多い。さて、日本国債は海外ではJGBと呼ばれ、過去何回となく欧米ヘッジファンドが空売り攻勢を仕掛け、ことごとく失敗してきた。

 

1400兆円を超える金融資産の最大の運用先として安全資産のJGBを大量に長期保有する日本人個人に負けてきたともいえる。しかしその鉄壁が大きく揺らぎつつある。900兆円を超え、さらに膨張の一途の公的債務。対して住宅ローンなど差し引けば実質的には1100兆円程度の個人金融資産がこれから団塊の世代に食い潰されるは必至。債務と資産が逆転する臨界点に達すれば、たちまちJGBの鉄壁は崩壊する。

 

そこでいよいよ今度こそ「勝てる」と読む海外ヘッジファンドも多い。これまでは個人金融資産に守られ国内で消化され保有されてきた温室育ちのJGBが一気に外海の荒波にさらされるわけだ。そうなれば、少子高齢化が進み移民も拒む国が発行する借金証文を誰が買ってくれるのか。何らかの政治的コストを払ってチャイナマネ
ーにすがるしかないのか。

 

なお、お馴染みの大手ヘッジファンド、ポールソン&カンパニーはギリシャ財政危機をいち早く察知しクレジットーデフォルトースワップ(CDS)を安く購入していた。そのうえで値上がりしたギリシャソブリンCDSを欧州系金融機関に転売することで利益を上げる一方、売り叩かれたギリシャ国債を底値で拾うという行動に出た。

 

安く購入したCDSを、自らのギリシャ国債保有のヘッジに使えるため、行動は大胆であった。しかも市場では、買い手のつかないギリシャ国債を買い支えてくれたと感謝までされて白馬の騎士扱いである。これはさすがに本人は片腹痛いことだろうが。

格付け会社ムーディーズは米国債の格付けを引き下げ方向で見直す可能性を示した。債務上限引き上げが適時に達成されない可能性を考慮したようであり、為替市場ではドル円が1ドル78円台に突入している。日経225先物についてはイブニングで一時10000円を回復していたが、シカゴ先物との乖離を縮める動きが予想される。